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福岡高等裁判所 昭和40年(ラ)20号 決定 1965年3月17日

理由

一  抗告の趣旨と理由は別記のとおり。(省略)

二  本件記録及びこれに関連する熊本地方裁判所昭和三九年(ケ)第五八、五九号、同三八年(ヲ)五三六号事件記録によれば、抗告人はその所有にかかる本件競売の目的たる不動産(宅地一筆、建物一棟)につき、(一) 本件競売申立抵当権者興和商事有限会社との間に、昭和三一年一〇月一九日締結された、消費貸借契約についての抵当権設定契約を原因として、同日熊本地方法務局受付第一三、一七七号をもつて、同会社を抵当権者とする債権額金七四八、〇〇〇円、弁済期昭和三二年四月三〇日、利息年一割五分、遅延利息年三割の抵当権設定登記(右会社はこの抵当債権中元金五五万円及びこれに対する昭和三二年一〇月六日以降年三割の割合による遅延利息が残存するとし、その実行として、本件競売申立をなした。)、(二) 同会社との間に、昭和三二年一二月一七日締結された、消費貸借についての抵当権設定契約を原因として、同月二五日右法務局受付第一七、九七九号をもつて、同会社を抵当権者とする債権額金四三三、〇〇〇円、弁済期昭和三三年六月三〇日、利息年一割八分、遅延利息年三割六分の抵当権設定登記(この抵当権に基づいて、同会社が昭和三九年五月一五日競売を申立てたのが、原審昭和三九年(ケ)第五八号事件で、即日本件に記録添付の上、その旨利害関係人に通知されている。)。(三) (1) 右会社の代表者である抗告外寺守久俊との間に、昭和三四年二月二〇日締結された、消費貸借についての抵当権設定契約を原因として同年三月二八日右法務局受付第三、六九六号をもつて、寺守久俊を抵当権者とする債権額金二五万円、弁済期同年五月末日利息年一割八分、遅延利息年三割六分の抵当権設定登記。((2) この抵当権は同年四月六日被担保債権とともに、抗告外千代田産業株式会社に譲渡され、同日右法務局受付第四、〇八四号をもつて、抵当権移転の付記登記がなされている。)。(四) 右寺守久俊との間に、昭和三四年二月二〇日締結された、消費貸借についての抵当権設定契約を原因として、同年三月二八日右法務局受付第三、六九七号をもつて、寺守久俊を抵当権者とする債権額金七万円、弁済期同年五月末日、利息年二割、遅延利息年四割の抵当権設定登記(この抵当権に基づいて、寺守久俊が昭和三九年五月一五日競売を申立てたのが、原審昭和三九年(ケ)第五九号事件で、即日本件に記録添付の上、その旨利害関係人に通知されている。)を各経由したところ、抗告人は昭和三一年一〇月一九日金五〇万円を借用したに過ぎず、金五〇万円を超過する金額は、その利息及び遅延利息を消費貸借に改めた上、右(一)ないし(四)の抵当権の登記がなされたという経緯であるため、昭和三六年四月二八日熊本簡易裁判所で抗告人と前示有限会社及び寺守久俊間に起訴前の和解が成立し(同裁判所同年(イ)第二九号事件、なお同事件の和解調書中「被申立人興和商事有限会社代表清算人寺守久俊」とあるのは「被申立人興和商事有限会社右代表清算人寺守久俊及び寺守久俊」の明白な誤記と認める。)、その和解条項の要旨は、

1  抗告人は前記有限会社に対し、元金九〇万円及びこれに対する昭和三六年五月一日以降完済まで、一ケ月金一万円の遅延利息の支払い義務あることを確認する。2 抗告人は二年以内に本件競売の目的となつた不動産を処分した上、その代金をもつて1の債務中元金九〇万円を右会社に持参支払うこと。3 抗告人は右1の利息金の支払いに代えて、本件不動産のうち建物の表ホール部分(約十四、五坪)を2の支払いが済むまで同有限会社に使用させること。4 抗告人は同会社が右部分を第三者に使用させることを承諾する。5 寺守久俊は、前示(三)の(2)の付記登記の抹消登記を経た上、(三)の(1)及び(四)の各抵当権設定登記の抹消登記手続をなすこと。6 同会社は原裁判所昭和三五年(ケ)第二五五号不動産競売申立を、抗告人は同庁昭和三六年(ヲ)第一九〇号不動産競売開始決定に対する異議申立を各取下げること。7 抗告人が1の金額を右会社に支払わなかつた場合は、前記会社は競売を実施する。8 抗告人が1の金額を支払つた場合は、前示会社は前記(一)及び(二)の各抵当権設定登記の抹消登記手続をするというのであること。

しかるに抗告人は、前記1の金員のうち少くとも元金九〇万円を約定の期限内に支払わなかつたので、前示会社は昭和三八年九月二五日前記(一)の抵当権に基づいて、本件の競売を申立て、ついで(二)及び(四)の抵当権に基づいて、前示のとおり各本件不動産に対し競売を申立て、この各申立が本件記録に添付されたことの各事実を認めることができる。

以上の認定によれば、寺守久俊が前示(四)の抵当権に基づいて競売を申立てたのは(前示三九年(ケ)第五九号事件)違法であり、原裁判所が同申立を本件競売事件記録に添付したのも違法であつて、同裁判所は同申立を添付することなく、これを却下すべきであつのたであるが、記録添付はこれによつて添付の時から、配当要求の効力と被添付事件の競売手続が取消し(取下、停止を含む)となつた場合に、開始決定を受けた効力を有するものであるから、本件競売手続が取消されて、添付された前示昭和三九年(ケ)第五九号事件の競売手続が続行されて、競落許可決定が言渡された場合は格別、本件競売手続が取消されないで適法に存続し追行されている以上、前示の記録添付は、不存在の債権をもつてする配当要求たるの効力を有するに過ぎないと解されるので、本件競落許可決定に対する抗告において、寺守久俊は抵当債権を有せず、その競売申立は違法であるから、競落許可決定は取消さるべきであると主張することのできないのは当然である。原裁判所が記録添付という処分を取消し、前示昭和三九年(ケ)第五九号事件の競売申立を却下しない場合は、抗告人は同申立に対し執行の方法に関する異議を申立て、記録添付処分の取消と競売申立の却下を求めるべきである。したがつて、寺守久俊のなした競売申立を違法として競落許可決定の取消を求めることに帰する所論は理由がない。

三  つぎに本件競売申立の抵当債権とこれに添付された前示(二)の競売申立(前示昭和三九年(ケ)第五八号事件)にかかる抵当債権の各金額が過大であるという主張について。

抗告人の主張に従つても、抗告人が競売申立抵当権者興和商事有限会社に対し、金九〇万円の抵当債務を負担していることが明らかである。ところで記録によれば、右会社の抵当債権に優先する公租公課の債権が少くとも金二〇余万円存在すること、本件不動産中宅地は金一〇〇万円、建物は金四六万円計一四六万円を最低競売価額として一括競売に付され、古川壱朗において金一四六万円をもつて一括して最高価競買の申出をなし、同人に競落許可決定が言渡されたことを認めうるところ、建物のみの売得金をもつてはもとより、宅地の売得金のみをもつても、前示公租公課及び競売申立会社の債権を弁済し得ないことが明白である以上(民訴第六七五条)、原審が本件不動産全部について競落を許したのは相当であつて、原決定にはなんらの違法も存しない。不動産の競売において、競売申立債権額が、真実存在する債権額よりも過大であることを理由として、競落許可決定に対し抗告を申立てうるのは、原則として競落許可決定が民訴第六七五条の規定に違反する場合にかぎられ(民訴第六八一条第二項、第六八〇条参照)、右第六七五条に違反しないかぎり、競売裁判所は競落を許すべきである。抗告人は競売裁判所が競落代金交付期日(配当期日)を指定したときは、競売申立債権の過大であることを主張立証して配当異議の申立をなしうべく、あるいは競落人が代金を納付するとともに、執行の方法に関する異議を申立てて、債権の過大であることを主張立証して、自己の利益を守護することができ、かかる救済方法をもつて時期を失するものというべきではない。

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